ウェザーニューズが来春の花粉シーズンに向けて、花粉観測機「ポールンロボ」の設置者募集を開始しました。

花粉観測機“ポールンロボ”の設置者を募集開始 | Weathernews Inc.

ウェザニューズは会員利用者(サポーター)からの情報提供を加味した独自の情報提供を行っています。スマートフォンアプリから自身の体感に基づく空模様報告「ウェザーレポート」から始まり、ボールンロボのようなセンサーも会員が提供するロケーションに設置して観測を行っています。

防災・減災のためのIoTセンサー設置にはロケーション確保が重要な問題となりますが、目的(花粉飛散量の予測)と効用(自宅周辺の花粉飛散量予測が提供される)が明確であれば、無償協力者は出てくるという良い例です。

観測地点が増えることで、精緻な予測が可能になることもウェザーニューズの予報は実証しています。2013年冬、大雪予報の精度向上にサポーターからの情報提供を活用している事例を、WirelessWire Newsで取材しました。平時でもデータを収集するための工夫など、防災・減災のためのシステムづくりに活かせるヒントが多数聞けたインタビューでした。少々古い記事ですが、ご紹介します。

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400万人のサポーターが支えるウェザーニューズの天気予報
WirelessWire News 2013.2.15

例年になく首都圏に雪の予報が多いこの冬だが、「雪」の予報は難しい。2月6日朝には、気象庁が前夜に出した「都心で8センチの積雪を記録した1月14日以上の大雪」という予報にもとづき、首都圏では鉄道の間引き運転などが行われたが、実際には一時的にうっすら積もった場所があった程度で、気象庁には「予報が大げさではないか」などの苦情が寄せられたという。

一方この日、民間の気象情報サービス会社ウェザーニューズでは、前々日には「大雪」だった予報を前日午後には雪よりも雨寄りに変更。結果的に、当日の天気と近い予報を発表することができた。なぜ、ウェザーニューズは、「大雪」の予報を修正することができたのか。ウェザーニューズの予報部門を統括する同社取締役 森田清輝氏と、当日の予報運用責任者の喜田 勝氏に話を聞いた。

▼株式会社ウェザーニューズ 取締役 森田 清輝氏(右)と同社WITHステーションコンテンツ運営本部チームリーダー 喜田 勝氏
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気象屋がサポーターに負けた日

ウェザーニューズが予報を変更できたのは、全国各地から自分のいる場所の情報を「ウェザーリポート」として送る「サポーター」の報告があったから。2005年から運用をはじめたウェザーリポートは、サポーターが現在いる場所の空の様子や体感情報をアプリを通して送信するもので、その情報を詳しく解析することで、従来の気象情報よりも精度の高い情報の提供が可能になる。

同社の気象予報士がウェザーリポートの重要性を認識したきっかけは、2009年3月3日にさかのぼる。この日は大雪の予報で、東京都内でも積雪の予想が出されていた。だが、雪が降り始める予報の時刻が近づくに連れ、サポーターからは「雪は降りそうにない」というリポートが次々と届き始めた。「しかし我々は、これから気温が下がって雪になると言い続けました。でも、結局雪は降りませんでした。気象屋の予報が、サポーターの五感に完敗したのです」(森田氏)この日は、ウェザーニューズの社内で「敗北記念日」として語り継がれることになる。

「会社としては”サポーターの皆さんと一緒に作る天気予報”と言っていたが、予報担当者にはそうは言っても餅は餅屋、天気のことは気象屋である自分たちが専門家だという自負がありました。でもこの日、サポーターの五感の素晴らしさを強く感じた我々は、いただいているリポートを有効に生かし、予報として返していくということを決めたのです。サポーターと一緒にやっていく、ということに対する、わだかまりが消えた日でした」(森田氏)

そもそも雪になるか雨になるかを決めるのは、地表近くの気温であり、わずか1度の違いで雨になるか雪になるかが変わる。しかも、境目となる気温は湿度などさまざまな条件で異なり、一定ではない。ちなみに、この日の予報がはずれた理由は、「予想以上に暖気が入ってきたことが原因で、気温が下がらなかったこと」だという。

その日以来、積雪時のサポーターからのリポートを積み重ねていくことで、雪と雨の境界線のリポートによる可視化、サポーターが報告する雪の降り方と実際の積雪の関係による「雪の積もりはじめ」の予測など、さまざまな雪に関する知見を積み重ねてきた。

サポーターが「雨」予報に背中を押してくれた

2013年2月5日、関東で大雪の予報の前日。当初の予報では、南岸を発達しながら低気圧が通過するのに伴い、北から冷たい空気が入ってくると予想されていた。ところが昼ごろになって、気圧配置や気象場から、南よりの風の流れが関東平野に入る兆候が見えてきた。コンピューターによる数値データからは、この先大雪になるシナリオと雨になるシナリオがほぼ五分五分であることを示している。「この状況は2009年の3月3日のあの日に似ている」と感じた喜田氏は、サポーターの声を聞いてみようと考えた。はたして、サポーターからのリポートは「雪は降りそうにない」というものが圧倒的に多かった。

過去の同じような気圧配置の時の数値予報とサポーターからのリポートを分析した喜田氏は、予報を変える決断をする。13:30に予報担当者や顧客との窓口になる担当者、コンテンツ担当者などが集まる予報確認会で状況を説明し、「ウェザーニューズの予報は、大雪から雨よりの方向に変えていく」という方針を確認した。その後も状況を見ながら、「まず予報の『大雪』から『大』を外そう」「ところによっては雪ではなく雨のところもある」と、徐々に予報を雨よりにシフトさせていった。

一夜明けて2月6日。関東平野の広い範囲で午前中に一時的に雪は降ったものの、東京湾沿岸部ではずっと雨。うっすらと積もったところでも、13時以降は雨に変わり、東京23区内では「大雪」には程遠い状況となった。「今までの考え方なら、大雪と雨、両方の可能性がまったく五分五分であれば、備えがなかったときのリスクを考えて大雪という予報を出したと思います。しかし、今回はサポーターに背中を押されて予報を変えることができ、結果的に正しい情報を届けることができました」(喜田氏)

当日の積雪についても、サポーターに情報提供を呼びかける「ソラミッション」で、雪や雨が「積もりそう」か「積もらなそう」かをたずねて情報収集。7時台には「積もりそう」が多かったが、9時以降は「積もらなそう」が増えたことを見て、雪のピークは越えたと予測している。

▼当日朝の「ソラミッション」報告の時系列変化 ※6:00以降 (画像提供:ウェザーニューズ)
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では1月14日、東京都心でも数センチ積もった大雪の日の予報はどうだっただろうか。あの日は、フィリピン海から南シナ海を通過した台風1号の暖気が流れ込んできていたので、南岸低気圧が通常よりも急速に発達することはほぼ間違いなかったという。ただ、いつのタイミングで雨が雪に変わる気温まで下がるかという予報が難しかった。ウェザーニューズでも当初は雨が昼過ぎから雪に変わると予測していたが、早い時間に横浜から雪の報告が届いたことを確認し、雪の降り始める時刻の予想を前倒しに修正した。

また、その後は降り止むまで雪だと予想していたが、15時頃に群馬と埼玉の間から「雨」の報告を一件、受信した。発信時刻、位置情報と写真とコメントで送信されるウェザーリポートは、すべてリポート確認担当者が目を通しており、何か変化があれば気象予報士の持つスマートフォンにアラートが届く。「てっきり雪のまま終わると思っていたので、最初はえ?という感じでした。でも、雨の報告が来たのだから、これは雪が雨に変わるのかもしれない、と思い、予報を見直している間に雨の範囲がどんどん広がってきました。そこで、これは降り止む前に雨に変わると判断して、ピークは越えたというメッセージを出し、雨に変わると判断できた地点から予報を出していきました」(喜田氏)

雪の予想は難しい

ウェザーニューズのサポーターは現在、400万人。2012年7月にウェザーリポートのソーシャル化を目的にアプリをリニューアルしたことで、30万人から一気に増えたという。現在地の様子を写真で報告する「ウェザーリポート」は平常時には1日約1万件程度が寄せられるが、雨、雪、台風などの悪天候時には増える傾向があり、2月6日には通常の2倍程度の21540通寄せられた。また、現在地の天気を報告すると、1時間先までの10分ごとの天気予報を見ることができる「10分天気予報」の報告数は62968件にも上った。

▼「10分天気」緑色の線が2/6の報告数。通常は報告がほとんどない未明から多数の報告が寄せられていた。(画像提供:ウェザーニューズ)
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「サポーターの方々を見ていて思うのは、誰でも自分の住んでいるところの天気については専門家だということです」(森田氏)空の感じや空気の温度で感じる人もいれば、膝が痛い、耳鳴りがするなど、体調で雨や雪が降るのが分かる人もいる。同じ場所に長く住んでいる人はその場所のことはよくわかる。その知恵がリポートという形で集約されることで画像化され、統計的にまとめればデータから情報に変えることができる。

アメダスは20km四方のメッシュで配置された精密な観測網だが、観測点と観測点の間でだけ雨が降ってもそれはアメッシュでは観測できない。しかし、その場所に住んでいる人にとっては「雨が降った」というのが正しい情報なのだ。「精密さよりは正確さを求める時代になっているのかなと思います。我々のサービスという次元で考えると、参加していただいた方に正確度の高い情報をお返しできるか、という発想になります」(森田氏)

▼2/6 7:00の雨と雪の境界線。アメダスの積雪深計の位置のデータだけでは、雨と雪の境界は分からない。(画像提供:ウェザーニューズ)
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▼インタビュー実施日(2/8)は北日本で大荒れの天候となっていた。レーダーで雪雲が映っていない場所(オホーツク海沿岸)でも吹雪となっていることは、サポーターからのリポートがなくては把握できない。
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「サポーターと作る天気予報」は平常時でもデータを送る仕掛けで実現

ウェザーリポートはGPS座標と写真とコメントがセットになっているので、天気の局地性がよくわかる。雨雲が出てから降るまでの時間も、地形などによってさまざまだ。「雨は西から東に移動する」というのは、大局的には正しくても、それぞれの場所ごとにみれば必ずしもそうならないことは多い。長年蓄積されてきたリポートを分析することで、場所による傾向が見えてきた。

熱心にリポートを送信するコアなサポーターには、「ソラヨミマスター」の称号とともに、気象計測器を提供している。約1万人のソラヨミマスターが、日々気圧、気温、風速などをリポートしている。

▼ソラヨミマスターに提供される気象計測器。
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台風が接近して来たときには気圧を測定して報告してもらうことで、台風の接近前の気圧低下を感知し、進路を予測できる。また、寒冷前線が発生したときは、多くの地点で気圧と気温を測定することで、前線の位置と移動速度が分かるので、いつどこを前線が通過するかを高い精度で予測できる。

天気図やコンピューターを使った数値予報は、気象学的には正しいけれども、実際にはあたらないこともある。サポーターからのウェザーリポートを合わせて利用することで、予報担当者が利用できる情報は2倍、3倍になり、より正確な予報が可能になる。

「サポーターの中には、予報が外れたときには、僕達が報告しなかったからあたらなかった、だからもっと報告しよう、と言ってくださる方もいます。はじめてそれを聞いたときにはびっくりしましたが、いい予報を一緒に作り上げよう、という思いで参加していただいているんだなと思いました」(喜田氏)

「何かあったときにはリポートが集まるのは、平常時にさまざまな”報告を送ってもらう仕掛け”を用意しているからだと思います」(森田氏)四季折々の桜、紅葉の写真や、思いついたときに空の写真を送り、シェアする楽しみが、何かあったときに情報を送る練習になっている。

天気予報はリスクコミュニケーション

創業時のウェザーニューズは、船舶に気象情報を提供していた。当時から創業者は「我々は天気予報を売るのではなく、リスクコミュニケーションサービスを提供している」と言っていたのだという。天気予報は必ず当たるものではなく、ある程度の振れ幅を持つ。確率の高い事象と、振れ幅を知らせることで、「どの程度のリスクがあり、どのような対応が必要か」を顧客に知らせるのが基本的な考え方だ。

ウェザーリポートのソーシャル化にもそのコンセプトは生きている。さまざまな場所にいるサポーターが空の様子をシェアすることで、現在地の周辺に怪しい雲はないか、見つけたときにはその周辺から雨の報告はないかと確認でき、天気の変化に備えることができる。

「毎日は大変なので、たまに思いついた時に送ってくれればいいんです。そうしてお天気好きな方が増えれば、私たちのビジネスにもつながります」(森田氏)普段から空の様子をシェアする習慣が、いざという時のリスクを正しく知るための情報サービスにつながっていく。

WirelessWire News 2013.2.15