IoTで地方から世界へ IoT益田同盟の現場(前編)メッシュネット・LPWA・FTTHで建物と都市インフラを含む市内全域IoTネットワーク化間近に

By | 2017-12-01

IoTによる地方創生という意味で、筆者が個人的に注目しているプロジェクトがある。益田市のシマネ益田電子(以下SME)とアーキテクトグランドデザイン(AGD)が中心となって仕掛ける「IoT益田同盟」だ。この目で確かめたくなり、2017年10月、現地を訪れた。前編ではテストベッド構築を目指したプロジェクトの進捗状況をレポートする。

自社工場をスマートファクトリー実証実験のテストベッドに

最初に訪れたのは、中心となってプロジェクトを担うSMEの本社だ。同社は島根県益田市の臨空ファクトリーパーク(工業団地)に立地する。宇宙、防衛、車載など最先端で収益率が高い分野に特化した半導体受託生産と通信向け半導体の製造事業が事業の柱である。益田市の他にタイにも生産拠点を持ち、海外向け製品の生産も手掛ける。高周波を扱う半導体のモジュール技術にも強く、無線技術にも精通しているのが強みだ。

前列左から シマネ益田電子平谷太副社長、同石川譲社長、アーキテクトグランドデザイン豊崎禎久氏。

モジュールパッケージ(写真左上)とMAP-QFN(写真右上)。下のパネルは得意技術を解説している。

同社が2つの主力事業に次ぐ第3の矢として取り組もうとしているのがIoTだ。IoT益田同盟に参画し、通信とセンサーという同社の強みを活かしたビジネス創造を目指している。キーワードは「見守り」。最初の取り組みは2017年夏から取り組みを始めた水の見守りである「CPS型河川氾濫予知システム」。そして8月からは、同社工場を実験フィールドとして環境センサーを配置するスマートファクトリー実証実験も始まった。まずはここから紹介しよう。

構築したのは「切れない通信」のメッシュネットワークと、IoT向けのセキュリティソリューションを中心とした、スマートファクトリーやスマートビルディングなど屋内向け環境モニタリングソリューションだ。工場の1階と2階、クリーンルーム内と原材料を保管する部屋に、合計9機のセンサーを設置し、室温、湿度、照度、環境ノイズ(在室検知)を測定している。センサーはオムロン、富士通エレクトロニクスのWiSReedソリューションで構築したサブギガのメッシュネットワークで中2階の開発部に設置したIoTゲートウェイに接続。ゲートウェイとサーバにはトレンドマイクロのセキュリティソリューションを組み込む。

クリーンルーム内に設置されたセンサー

中2階の開発部内に設置された親機。センサーノードのデータはここに集約され、サーバに送信される。

スマートファクトリーといえば生産設備を接続し制御する事例が多い。だが現状、無線通信を利用する以上、レイテンシーの問題やそもそも100%確実に接続できるとは言えず、マシンを接続するには慎重にならざるを得ないというのが同社の判断だ。同社が取り組む工場の見守りソリューションは、スマートビルディング、統合型リゾートのソリューションにそのまま転用できる。

次のステップとしては、同社のタイ工場にも同様のセンサーネットワークを導入した可視化、振動センサーなどセンシング項目の追加や、キュレーションズが提供するplusbenllyを活用した機器連携なども計画している。将来的には産業市場向けサービスプラットフォームとしてSMEがこれらを収益化するというモデルだ。

台風時の水位上昇を深夜に検知し氾濫を未然に防ぐ

CPS水路氾濫予知システム センサー配置図(図版提供:SME)

7月から開始したCPS水路氾濫予知システムのこれまでの成果についても聞いた。

7月に設置した6カ所の水位センサーからは、現在、10分に1回の頻度で水位、気温、湿度のデータを同時に取得し、雨量計データと共に蓄積している。市役所のパソコンからダッシュボードにアクセスして場所別の水位が確認できる。

スマートフォンアプリでリアルタイムに水位が確認できる。

スマートフォンのアプリでも確認できる。計測された数値によりアラートを発報する仕組みも実験中だ。現在、市役所の業務の中に正式に組み込まれてはいないが、台風時には深夜に職員がスマートフォンで水位の情報を確認し、閉じていた水門を開くことで氾濫を未然に防ぐなど、実際に防災の成果を上げている。

従来、これらの水門は、ほとんど動かされることはなかったのだそうだ。水位調整のための仕組みとして設置はしたものの、実際に動かしたときに水位がどうなるかを検証する方法がなかったのがその理由だ。現在は水門を動かして水位のデータを取ることで、設定された水門開閉ルールを検証している。

⑤地点は、2つの水門がある。これまでは常時開放状態だった。写真右が設置された水位計。水に差したパイプの中の空気圧を水面の高さに変換し、LPWAで送信する。センサーと無線通信が一体化したモジュールは電池駆動で数年間動作する。

②地点は水利組合が管理する水門。水田に農業用水を引くときには閉め、氾濫時には開けて水を益田川に流す。2本の水路が合流しており、一番水量変動が激しい。1メートルぐらいは上下する。

 

また、6カ所のうち1か所は、低地で2本の水路が合流する地点で、氾濫しやすい場所。水門はないが水位監視のためにセンサーを設置している。

9月初旬の1時間80ミリの集中豪雨では、氾濫には至らなかったものの、短時間で1.5m近い水位上昇が確認できた。現在のデータ送信間隔では対応できない可能性も明らかになり、現在、「有事」時のデータ送信間隔の短縮を検討している。

地点別の水位データと降水量をプロット。グラフ左よりの上昇は集中豪雨によるもの。右寄りの上昇は台風18号によるもの。(画像提供:SME)

気温、気圧、湿度が表示されるダッシュボード。気温や気圧などでアラートを出すことも可能。(画像提供:SME)

センサーからのデータは出力20mWで送信され、駅前のビル屋上に設置した中継局を経由して、シマネ益田電子に設置したサーバに送信される。送信に使用しているのは、AGDと慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(以下、慶應義塾大学)で共同研究を行ったPrivate-LoRaのLPWAプラットフォーム「IoT PLANET HIGHWAY」だ。

中継器は駅前のビル屋上に設置しており見晴らしは良い(写真下)が、隣にある高層ホテルに遮られ電波が届かない場所もある(写真右)。建物の陰になる場所には、マルチホップで迂回させ通信する。

LPWAとFTTHのハイブリッドで市内全域のIoTネットワーク化

JAXAの超小型衛星向けに開発した Hyper-LPWAについては、海岸沿いで長距離通信の実験も行った。これは、将来のマリンIoTも見越しての実験だ。周波数は920MHz帯を使用して、90mWの出力で最長26kmまで通信可能なことを確認した。リアス式海岸の場合は回り込みが必要となるため、直進性の高い920MHz帯では苦しいが、380MHz、280MHzなどのより波長の長い周波数を使うことで長距離の伝送も可能になりそうだ。

海岸沿いでの通信実験。右上の大浜漁港から最長で26km(測定は地上高1.5mで送受信)離れた⑥地点での通信が可能(図版提供:SME)

「CPS型河川氾濫予知システム」の次のフェーズは、川の上流の水位をセンシングすること。雨で上流の水位が上昇したことをいち早く検知できれば、下流まで水が来るまでの間に優先順位をつけて避難誘導ができ、避難に時間がかかる高齢者などの安全を確保できる。

山間部への通信は、山による遮蔽もあり、直接電波を飛ばすのは難しい。そのため、FTTHが敷設された既存の建物に基地局を設置し、LPWAで基地局に送られたデータを光ファイバーで伝送する。市内全域をカバーするネットワークは、建物内のメッシュネットワーク、LPWAによるマルチホップネットワーク、そしてFTTHとのハイブリッド通信の組み合わせで実現する。

比礼振山山頂から大出力のLPWA基地局で通信した結果。平野部はほぼカバーできるが、山影には電波が届かないため、FTTHでカバーする。(図版提供:SME)

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